現役外科医に聞く「僕らが求めたいデキるオペ看はこんな人」


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今回は愛知県内の総合病院に務める7年目の現役外科医K先生にインタビューさせていただきました。オペ看は外科医にとってチームの重要メンバーです。オペ看として成長したいと思っているなら、外科医がどんなオペ看を求めているかはひとつ気になる点ではないでしょうか?

毎日一緒に仕事をしているのに、意外と外科医とオペ看がじっくり話をする機会はありません。今日はK先生にじっくりと貴重な話を聞いてみました。

インタビュアー
Nurse Very運営者 安江夏希(看護師)

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なぜ医師になろうと思ったのですか?

安江:今日は「外科医はどんなオペ看を求めているか」というテーマでお話を聞かせてください。オペ看のみなさん、そしてオペ看を目指している学生さんも含みますが、みんな結構気になっていることだと思いますので、みなさんの成長のためにいろいろ教えて下さい。よろしくお願いします。

K先生:はい、よろしくお願いします。一応話したいことは準備してきました。

安江:まずはこれを読むオペ看の皆さんに、先生に親近感をもってもらうためにこの質問から。どうして医師になろうと思ったのですか?

K先生:大学受験のとき以来12年くらいぶりの質問ですね。それからあまり考えずに来たので。初心って忘れちゃうものなのでいい機会です。

医療現場って患者さんの状態を良くする現場じゃないですか。この一つの目標に尽きますよね。一つの目標に向かって全てのスタッフが利害関係なく仕事ができることが魅力だと思ったからです。

企業だと利益を優先したり他社と競争しなければいけないこともあるじゃないですか、医療ではそういうことはなく、患者さんを良くすることに集中して向き合っていけます。僕は競争が苦手だし世渡りも上手な方じゃないので性に合っていると感じました。出世を目指さなくても現場で患者さんと向き合うことに力を注げばいいですし。

安江:確かに医療の目的はシンプルでいいですよね。

K先生:あと、医学の知識は普遍的で世界中どこに行っても通じるし、日本が滅亡しても必ず必要とされるじゃないですか。高校時代は将来海外で仕事をしたいとも思っていたので、医師になったら海外でもどこに行っても自分の技術でやっていけるので、それも理由の一つです。

あと、人の人生や死に興味があったというのもあります。治すことも大事だけど、治らないこともありますよね、でも患者さんと寄り添っていくことも医療の一つで、僕はそういう医療に携わるの向いていると思いました。

なぜ外科を選んだのですか?

安江:先生は消化器外科が専門ですが、なぜ外科を選んだんですか?

K先生:消化器外科は学生時代からずっと決めてた進路なんです。婦人科や泌尿器科とか耳鼻科も興味はありましたが、やっぱり手術が一番の治療だと思ったからですね。

手術は最も結果がはっきり出る治療です。手術がしっかりキマると治る。この治した実感を感じやすいのが魅力です。予定オペでも取りきれるかギリギリの手術でなんとか取れたときはやっぱり嬉しいですね。

それから、患者さんやご家族に感謝されるのも醍醐味です。

安江:いろんなタイミングで感謝されると思うんですけど、どんな時の感謝が一番うれしいですか?

K先生:緊急手術の後ですかね。予定オペは準備もしっかりしてるし予定通り行くことが多いけど、緊急オペの時にやるだけのことをやり切って、感謝してもらえたときは一番うれしいです。

安江:私も夜中の緊急手術に呼ばれた時は、一番役に立てた実感があってうれしかったですね。特にオペ室から送り出すときにご家族の顔を見るとそう感じました。

K先生:あと、僕らが扱っているのは癌が多いですが、治せないケースにしても死まで時間があることが多いですよね。自分の人生を見つめ直したり家族と別れの時間があったり。医師としてそこに関わりたかったというのもあります。

オペ看は外科医にとってどんな存在ですか?

安江:オペは治す実感を感じる魅力的な仕事ということですが、そんなオペチームのメンバーであるオペ看は、外科医にとってどんな存在ですか?

K先生:一言で言うとオペが一番中心の仕事なので「戦友」でしょうか。なくてはならない人です。

安江:オペはときに戦わなくてはいけないこともありますもんね、執刀医のプレッシャーは計り知れないものだと思います。「戦友」という言い方になるのですね。

外科医が求めたいデキるオペ看とはどんな人ですか?

安江:では本題に入りますが、外科医が求めたいデキるオペ看とはどんな人ですか?

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早く正確な器械出し+好みの把握ができるオペ看

K先生:まずは器械出しですよね、早く正確に器械を出すことは、当たり前ですけど求めたい点です。ベテランナースだと、言うより先に出してくれる人もいますが、そういう人は助かります。

安江:器械を出すのが遅いとどうですか?

K先生:外科医は術野から目を離したくないんです。「遅いな?」と思うとどうしても器械出しの方を見ますし、自分で取ってしまいますし。

あと、早く正確にの他に、さらに自分の好みを把握してもらえるとうれしいですね。

安江:たとえば先生の好みの器械って何ですか?

K先生:僕は剥離するときなるべく鉗子を使わず、電気メスで膜を一枚だけ切るようにしていて、やむを得ず鉗子を使うときは先端が鋭利なものを選択します。腹腔鏡手術が増えた影響もあり、層を意識した手術をします。その時に、鋭な器械のほうが使いやすいんですよね。

安江:腹腔鏡がどう関係するのですか?

K先生:腹腔鏡手術は特に層を意識して進めていくので、それに慣れているというのと、開腹では見えない層がカメラでよく見えるようになって、だからより理解が深まってということです。丁寧に剥離して、出血したら放っておかずに確実に止めて次に進む、だから時間は少しかかってしまいますが。

安江:術後の結果に変わってくるということですか?

K先生:層が間違っていると神経損傷による機能不全を起こすリスクがありますし、郭清が甘いとがん細胞が残ったりして再発のリスクが高まることが考えられます。

安江:オペ看としては、この先生はこだわりが強くてうるさい、めんどくさい、と一蹴りにしてしまうこともしばしばですが、端的にそう思われるのは残念ですね。

K先生:そうですね、もちろんバランスは大事ですけど、必ず理由があってそうしているので理解してもらえるとうれしいですね。手術が終わったらマニュアルを作って覚えておいてもらえると助かります。

安江:毎日同じ手術につくわけではないので、忙しくても忘れないうちに残しておかなければいけないですよね。

セッティングに強いオペ看

K先生:あと、腹腔鏡手術が増えているので、機械のセッティングもきちんとしてもらえるといいですね。配線とか。

安江:病棟ナースや一般の人にはあまり理解できないかもしれないですけど、オペ看の仕事で配置、配線ってすごい重要な仕事ですよね。どこに何の機械を置いてどこから電源取るかって、ミスするとかなり痛い目を見ることになりますから。手術が中断しちゃう。

K先生:自動吻合器もいろいろあるから、セットの仕方とかメモっておいてもらえると助かります。若手医師は看護師さんに助けられることが多いです。

安江:腹腔鏡手術は増えたし、ロボット手術も出てきたし、オペ看の仕事もこの先どんどん変わっていくでしょうね。器械出しがメインじゃなくてメカの扱いのウエイトが大きくなるでしょう。ナビゲーションシステム入れた時はもう無理だと思った。

K先生:器械出しがなくなることはないでしょうが、仕事は増える一方ですよね、大変だと思います。

コミュニケーションを取るのが上手なオペ看

K先生:外科医とコミュニケーションを上手に取れる人はいいですよね。解剖のこと、術式のこと、道具のこと…僕らからももっと訪ねて行ったらいいんですけど、お互いにね。一言術前に聞いてくれればスムーズに行ったのに…ということがときどきあります。気軽に声をかけるタイミングがないのは問題ですけど。

安江:術前の打ち合わせもそうですが、私は術中に聞きたいことを聞けずにもどかしかったことがよくありました。今それ何やってるの?(記録しなきゃいけないんだけど!)とか。でも術中って聞いてほしくないですよね?

K先生:あー、術中はそうですね、あんまり。タイミングとかオペ看さんのキャラとかもありますけどね。できるだけオペが終わった後がいいですね。

安江:術後レントゲン撮って現像待ってる間とかですね。

K先生:そうそう。どんなことを聞きたいと思いましたか?

安江:そうですね、肝臓のオペ中とか、今どこクランプしてるの?とか。

K先生:あー、でもそれ下の医師もわかってないこともありますよ(笑)プリングルだと必ず5分空くので、その時に聞いて貰えれば大丈夫ですね。

安江:聞かれて嫌じゃないですか?時にトンチンカンな質問をしてしまうこともあると思うんですが。新人さんは特に聞くべきことと自分で調べることがわからないこともあると思うんです。

K先生:大概いいですよ。というかそれを理解しないといけないと思ってます。答えるようにしているつもりですが、その時自分がどういう反応をしているかというと…もしかしたら余裕が無い感じのときもあるかもしれませんけど!

安江:意外とオペ看と外科医が話をするタイミングって少ないんですよね。歓送迎会と忘年会くらいじゃないですか。

K先生:もっとお互いを知って、普段からコミュニケーションをとりやすい関係でありたいですね。

外科医を奮い立たせてくれるオペ看

K先生:天皇陛下の手術も担当した心臓外科医、天野篤先生の著作を読んだことがあるのですが、過去に胸部大動脈瘤のオペで、止めても止めても出血がどうしても止まらず一瞬諦めた瞬間があったそうです。

その時器械出しのオペ看から「私たちはこの手術に大変な準備と覚悟で望んでいるので、先生が諦めないで下さい!」と一喝されたそうです。先生はそれで目が覚めて、困難な手術を乗り切れたそうです。

安江さんも現役時代、肝切除の大手術を万全な準備をして臨んで、最後まで集中力を切らさず時に医師を励まし、無事手術を乗り切ったことがあると言ってましたよね。

安江:あの時は助手の先生がかなり疲れていて朦朧としていたのでね。私は気合入ってて冴えてたんです。

K先生:そんな風に、医師に活を入れたり奮い立たせられるようなオペ看は理想です。今日はこの看護師さんか!この人が入るなら頑張らなきゃ!と背筋が伸びるような

安江:オペ看はどうしても執刀医に頼ってしまって、なかなか同じだけの責任感を持つことってできないものですが、外科医をリードできるくらいになれたら一人前ですね。

オペ看のみなさん、オペ看を目指す学生さんにメッセージ

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安江:最後にオペ看のみなさん、オペ看を目指す学生さんにメッセージをお願いします。

K先生:オペ看の仕事は本当に大変だと思います。しかもそれ以外にも委員会活動もあるし、待機も、夜中の緊急も、指導も…。でも、とてもやりがいのある仕事だと思うので、この仕事をしていてよかった!と感じる日まで頑張ってほしいと思います。

安江:ありがとうございました!次は今日の話を深掘りしたテーマでインタビューさせてもらいたいです。またよろしくお願いします。