新卒から手術室看護師だと病棟への異動は大変?10年目の異動エピソード


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新卒で手術室の配属になって何年かやってきたけど、そろそろ病棟看護も経験したいかも〜という人、きっといますよね。その誰もが、看護の内容が違いすぎることから病棟でやっていく自信を持つのが大変なことでしょう。そうして迷っているうちに、5年、10年、15年・・・異動のチャンスは失っていくのです。

手術看護はもうたくさん!別の分野を学んでみたい!という人は比較的楽に踏み切れるかもしれませんが、手術看護が好きな人はちょっと迷うかもしれませんね。たとえば

「手術看護認定看護師になって専門性を極めていきたいけれど、その前に病棟看護も知っておきたい」とか、「手術看護が好きで病棟看護には実は興味はないけれど、一看護師としてダメな気がする」とういう感じの理由の人ですね。

このような「嫌じゃないけど」という人は、手術室の人手も足りないし・・・と、ついずるずる変化せず過ごしてしまうことでしょう。

 

実は私の場合も、手術看護が好きで病棟看護には興味はないけれどなんとなくダメな気がすると感じるタイプでした。注射もできないような看護師では、今後どこに転職しても厳しいのではないか・・・そんな不安が常にありました。

でも、好きじゃないことをあえてやるのも時間の無駄だという思いもあり、真剣にやりたいことを考えていった結果、途上国で医療ボランティアをしたいと思うようになり、異動はやめてNPOに入ることに。

ところが私が参加したジャパンハートの国際看護長期研修プログラムでは、はじめの半年間は人手不足の離島の病院に派遣され、その後海外での医療活動をすることになっていました。それで強制的に病棟看護を経験することになったのですが、結果非常に鍛えられ、医療の面白さを再確認できよい病棟デビューとなりました。そしてなにより、経験できてよかったと心から思えました。

だから、今異動に迷っている手術室看護師さんがいるなら応援します。苦労も正直ありましたが、今回はそれをお伝えしますので、準備できることはして、やりたいと思ったならその気持ちを忘れてしまう前にやってほしいと思っています。

書いているのは私です。
NurseVery運営者 安江夏希

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>プロフィール

お世話になった対馬の病院

私がNPOジャパンハートから派遣されて研修をさせていただいたのは、長崎県の対馬という離島にある、いづはら病院でした。現在は島内の他の病院と合併して対馬病院という新しい病院になっています。

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この病院の特徴は島の基幹病院ということで、つまり最後の砦で、たらい回しは絶対ない、全ての患者さんを受け入れるという点です。ですから私が配属されたのはICUでしたが、術後の方も循環器の方も慢性期の方も新生児も、とにかくいろんな症例の方がいらっしゃり、幅広い対応が必要でした。

当然私が即戦力になるわけがなく、先輩たちは見ていてやきもきしたと思いますが、皆さんは本当に暖かく受け入れてくださり感謝しきれないくらいです。まず冒頭ですがお礼を書かせていただきます。ありがとうございました。

苦労したこと

ではさっそく本題に入りましょう。異動というか転職してみて私は次のようなところで困りました。皆さんの準備の参考になればと思うので書きます。たぶん病棟の看護師さんはこんなところでつまずいているとは想像がつかないでしょう。

バイタル測定

まず体温計や血圧計の使い方がわからなくてあたふたしました。

体温計は鼓膜温や膀胱温プローベは使用しても、一般的な体温計を他人に挟むことは学生以来9年ぶりです。「あ、痩せてる人って体温計がポロってなるんだ」っていうのがリアルな驚きでした。

血圧計については、マンシェットは巻けるのですが、その後あのシュポシュポを揉んでどうするのかわからなくてドギマギしました。信じられないけど私が学生のときは水銀タイプの血圧計を持たされていましたので、何気に電子血圧計って使う機会はほとんどなかったんです。患者さんに使う前に自分でテストして「おー、できた」ってプチ感動・・・。

でもこのあたりは1回クリアしてしまえば全く問題ありません。心配はいりません。

清拭

体力的に精神的に堪えたのは朝の清拭です。

ICUの入院患者さんを奥の部屋から順番に清拭していきますが、担当するのは最大で5〜6人くらいでしたでしょうか。ほとんどが看護師二人で担当させてもらえるシステムだったので良心的なところだったと思いますが、それでも体力の配分がわからず朝10:30にすでに完全ダウンでした。10時台を示す時計の針を見て途方にくれたのをよく覚えています。こんなこと言ったら一般病棟の看護師さんに怒られそうですよね。

でもこれも1週間くらいで慣れて楽しくなりましたので大丈夫なはずです。

食事介助

食事介助もはじめの驚きは大きかったです。先輩看護師さんは、そろそろ手術室看護師が使い物にならないことに気づきながらも「食事介助なら大丈夫でしょ」ときっと思ったと思います。でもこれもダメなんです。

手術室は決して物を食べさせない場所です。「ベッドにいる人に食べさせるってどういうこと!?どうやって!?寝てるけど背中上げて起こしていいの!?」って素直に恐怖を感じました。食べやすく崩した方がいいだろうとゼリーを細かくくだいたら「あ、それはね・・・」ってストップが入り、慌てて食事介助の技術を見直したり。

食事介助については、商品開発も頻繁ですしエビデンスの更新も早いので、事前に基本技術とトレンドを調べておいた方がいいでしょう。しかし何より、看護技術ではあるけれど常識力も必要なところ。コミュニケーションをとりながらよく様子を見て進めていくことが大切です。

注射

腕を貸してくれたやさしい先輩をよく覚えています。手術室看護師の誰もが不安に思っているであろう採血、点滴留置。実際の患者さんに施すのには非常に緊張しました。

私自身、針を刺されることはとても苦手で見てられないくらいなので、患者さんはこんな慣れていない人にやられるのはどれだけ嫌だろうかと、たぶん必要以上のプレッシャーを感じていました。

高齢の方の血管となると特に何度やってもうまくいかないことも多かったですが、1回1回の失敗を無駄にしなければ、それほど慣れるまでの道のりは遠くないでしょう。この技術は事前の練習はなかなかできない現状があると思いますが、大丈夫です。失敗してショックを受けすぎずに次に生かすように気持ちを持つことが大事です。

夜勤

2交代で夜遅くまで稼働している手術室に勤めている方もいると思いますが、所謂一般病棟の夜勤を知らないというのも手術室看護師の特徴です。私は想像がつかない不安でいっぱいでした。「真っ暗なんだ、静かなんだ。」というのが初夜勤の感想。

この病院では日勤後帰宅して0時からの出勤という勤務形態だったので、夜勤前に寝られるかが心配でしたが「ねれなくても目をつぶって横になってるだけでも大丈夫だから」と言ってくれた先輩の何気ない一言が随分と安心になりました。

遺伝的な体質によるのだろうけれど、私は睡眠サイクルにはすぐ適応することができました。こればかりは体質が大きく影響するので、自身の体の特徴を早くつかみ、ベストな対応をしていくしかありません。事前の準備というよりやってみてというところですね。

蘇生

これも一般的には意外かもしれませんが、手術室看護師が蘇生に関わるチャンスはほとんどないのも特徴ですよね。

とりあえず手術に持ちこたえられる患者さんだけが基本的に入ってきています。まれに心停止に至る人がいるけど、救命のスペシャリスト麻酔科がぴったり付いているし、診療科の医師もたくさんいるのですぐ取り囲まれ、手術看護師は記録係または管理者への連絡係りになることが多いのではないでしょうか。

私は時間外に、ICUで蘇生中という噂を聞いた時には見に行って、何をしているのかこっそり観察しました。さすがに勝手に手は出せませんが、見ているのといないのとでは全く違います。手技書と見比べて実際を知る事が事前にできる準備です。

気をつけるべき点に気づけていないのではという恐怖

一番怖かったのは、注意するべきポイントがわからずに、危険予知不足でミスをするのではという恐怖でした。常識が常識として備わっていないことが大いにあり得るだろうと感じていました。

医療ミスの発生要因には、患者サイドの要因、環境要因、管理要因など様々ありますが、自分自身の知識不足に於いては最も防ぐのが難しいですよね。ですから、”あたりまえのことに気づいていないかもしれない” という状況をよく周りのスタッフに伝えて、目を光らせてもらえるよう協力を依頼するのがいいと思います。

でもなんとかやってこれた

半年間いづはら病院で研修させていただきましたが、結局半年経ってもまだまだわからないことばかりでした。しかし、手術室に9年勤務しましたが、9年いてもわからないことはたくさんです。皆さんもそうじゃないですか?つまり学ぶ事に終わりはなく、いつまでも不安はつきまとうものなんですよね。それを理解した上での評価では、半年間の病棟経験は大きな自信になったと私は言うことができます。

ひとつずつ考えて施すだけ。その連続です。いづはら病院のスタッフの皆さんの受け入れがかなり良かったというラッキーはありましたが、私がなんとかなったので、皆さんもきっと大丈夫なはずですよ。

やっぱり手術看護が好きだと気付いた

こうして私は看護師10年目にして他病棟への異動および他病院への転職を経験しましたが、その結果、やっぱり手術看護が好きだと気付きました。

手術を受ける患者さんは自分の意思で手術室にやってきて、私たちはそれに全力で応えるという関係で、目指す目標は一致していることがほとんどです。ところが病棟やICU、ERでは、治療を望まないけれど治療を受けてしまう患者さんも大勢います。

例えば認知症の方は、どう生きたいか、どう死にたいかの判断がすでにできません。発熱をしてしまうと施設からマニュアルによって病院に送られ、本人は全力であらゆる処置を拒否しているのに家族は特に意見してくれないので、医療者は仕方なく治療するというケースもあります。

または、自殺しようとしたのに担ぎ込まれてしまい、すでに心肺停止状態なのに家族と連絡がつくまで胸骨圧迫と強力な薬を投与され、体を痛めつけられるというケースもあります。自分の選んだ場所で静かに亡くなりたかっただろうに。

手術室でもまれに本人の意思とは違ってやってくる患者さんもいるけど、その数は圧倒的に少ないです。患者さんと医療者、お互いが同じ目標に向かって力を合わせられるのが魅力だと感じました。

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看護部長に救われたエピソード

私が過去にお世話になった看護部長には、手術看護経験のある方がみえました。ちょっと独特で強引な部分があったので人気は賛否両論でしたが、彼女は何より手術看護を誇りに思っていて、私はこの部長に救われたのを覚えています。

部長はスタッフひとりひとりの意見を積極的に聞こうとしてくれた人で、あるとき主任や師長は抜きでスタッフだけが集められたことがありました。そのときに、

「あなたたち手術室看護師はもっと誇りを持つべきよ。すべての始まりを作るゼロの地点が手術なの。ここで行われる手術の質が今後の生活の質を左右する。その瞬間に関われていることは素晴らしいことでしょ」

と、ちょっと疲れ気味だった私たちの気持ちを盛り立ててくれました。手術看護だけでは看護師として不十分なのではと迷っていた私の心には刺さりました。

異動はきっといい

何が言いたいかというと、手術看護が好きなら自信を持って好きでいればよくて、でも異動をしていろんな世界を知ることで手術看護を冷静に見ることができ、さらに好きになるかもしれないということ。

だから、なんとなく手術看護だけじゃダメな気がするからという気持ちじゃなくて、手術看護の新しい発見があるかもと期待して異動されたらいいんじゃないかなと思います。

私の師匠の認定看護師が言っていましたが、手術看護認定看護師でも病棟に勤務している人がいるとか。手術看護を理解するには手術の前後をぜったいに知っていた方がいいですしね。経験して損することは決してないでしょう。

プレッシャーはあると思いますが、私がなんとかやってこれたのだから、あなただって大丈夫なはずです。皆さんひとりひとりいろんな状況があると思いますので、もし異動について悩みを持っているなら、直接聞かせていただき解決に向けて一緒に考えることも可能です。

私は手術室看護師さんの為の相談サロンも開いていますので、よければいらしてください。お待ちしています。