9割は現場で学べ!オペ看向け解剖の勉強の仕方


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「オペにつけばつくほど、自分の解剖の知識がないことがわかって辛くなります。」

「実際は本のようにわかりやすくないです。」

「解剖を勉強しなきゃいけないことはわかってるのですが、どうやって勉強したらいいかわからなくて。。」

手術室の看護師さんからよく聞く悩みが、このような解剖の勉強の仕方です。私なりにどのように解剖を勉強すれば効率よく知識が身につくのか考えてみましたので、ぜひ試してみてください。

書いているのは私です。
NurseVery運営者 安江夏希

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間違った解剖の勉強の仕方

確か私が手術室看護師1年目後半だったときです、プリセプターが肺切除術に入るようにセッティングしてくれました。でもそれが手術の前日。当時の状況では頻繁に入る手術ではなく、タイミングがやってきたときに経験しておくべきと考えてみえたと思います。

1年目後半というと、初めての手術に入るときにはどのように勉強して準備をするか、ある程度自分なりの型ができてきた頃で、前日ではありながらも取り組むのにそれほど不安はありませんでした。帰宅後夕食を済ませ、よし!では解剖から、と勉強を始めました。

しかし「??これはもしかするとヤバいのではないか?」と気づき始めます。初めての開胸肺切除術というと、どのオペでも共通して勉強する、解剖、病態、術式、器械に加えて、分離肺換気、側臥位のポジショニング、陰圧ドレーンについてなど、初めて学ぶ者にとっては非常に専門的で時間がかかる内容も勉強しなくてはいけません。まだ解剖を勉強したところなのに21時、22時、、、オワタ!記憶に残る徹夜をした日となりました。

とりあえず周りの手厚いサポートがありましたので手術は無事に終わり、その後も何度か同じ術式の手術に入るようになりましたが、しばらくして当時自分が勉強した解剖のノートをふと見返して愕然とします。その内容は実際の現場でほとんど役立っていないと気づいてしまったのです。自分なりにきれいにノートにかけたので満足していたんですけどね。

何が間違っていたのか今一度振り返ってみると、手術室看護師に必要な解剖知識というものを理解しないで、目的なしに勉強しに行ってしまったことです。術者にとって必要な解剖知識、麻酔医にとって必要な解剖知識、病理医にとって必要な解剖知識、それぞれの役割によって求められる解剖知識の範囲、深さは異なります。では手術室看護師にとって必要な解剖知識はどのようなものでしょうか。

事前学習の仕方

まず初めての手術につくときに解剖の本で事前学習をすると思いますが、そのときに必要な解剖知識はというと、

1.看護師国試レベルのおおまかな概要

2.臓器に接触する大きな血管

以上です。先ほど例に挙げた肺切除に必要な解剖でいうと、

 

1.看護師国試レベルのおおまかな概要

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出典 https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2547

2.臓器に接触する大きな血管

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出典 http://www.i-l-fitness-jp.com/aboutbody/circulatory-system/vein/hai.html

このくらい。肺は右3つ、左2つに分かれてる、その程度で結構です。右は10区域に分かれるとかは知識として知っている程度でいいです。割合で言うと1割くらいを事前学習に当てればよいと考えています。貴重な時間を事前学習に費やしすぎないことがポイントです。

事前学習と現場のギャップ

事前学習を1割に留めろと言う理由は、たくさん勉強したところで解剖の本と現場で見える解剖は違うからです。実際に看護師のポジションから見える術野ってこんなふうですよね。

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看護師の立ち位置からちょっと遠くにあって、開創した傷口は小さく、しかも奥行きが深い。離れた位置からでは内部の様子がよくわかりません。しかも解剖の本で見たのとは全く違う方角から見ているし、取り出して見るわけではないので全容がほとんどわかりません。時代とともに傷口は小さくなる一方ですので、今後もますますわからなくなっていくでしょう。

だから、本からではなく、9割を現場で学ぶのが大事ということです。手術室看護師に必要な解剖知識とは、きれいに書かれたイラストの部位と名前を覚えることではなく、ここの立ち位置からの見え方で理解する解剖知識なんです。

でも見てもわからないよ〜と思っていることでしょう。そう、解剖の本のようにパキッと色分けされてないし、隣同士の組織とくっついています。こんなふうに。

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実際はぼんやりと色やテクスチャーが違う何らかが見える感じです。術者ってすごいなーって思いますよね?なんかぐちゃぐちゃっとしたところを切り込んでいって、気づくときれいに剥離されてそれらしい形が見えてきます。でも術者がなぜわかるかというと、触ったときの触感だったり、剥離したときの避けやすさだったり、手に伝わってくる感覚もおおきなヒントになっているのです。同じように勉強したとしても、介助の看護師が得られない情報です。

病棟の看護師さんからすると、手術室看護師は解剖を熟知しているイメージがあると思いますが、実際の臓器を見ているからきっとよくわかるだろうなと思うのですよね。でもこんなふうに、実は手術室看護師さんはそれほど実感していないメリットなんです。

じゃあどうしたらわかるようになるの?現場での勉強の仕方

器械とセットで「何か」を認識

よく見えないし、結局見てもよくわからないし、ここからどう勉強を進めるとよいのでしょうか。その答えは、

1.器械とセットで覚えること

2.よくわからない何かであっても「よくわからない何か」としてきちんと認識すること

です。例えば遮断鉗子が出たシーン。「実際に鉗子をかける所は見えないけれど、何かをかんだのだろう。大きな遮断鉗子だから、きっと大きな動脈だろう。となると解剖の本に書いてあるアレだろうか?」こんなふうに考えます。

他には、このときだけ毎回コッヘルが6本出るというシーン。「コッヘルで何をつまんでいるのか?何かの辺縁で、色は赤っぽくて若干硬そう」こんなふうに名前がわからなくても「何か」をきちんと認識します。

これを毎回繰り返していると、本を見たときにこれかもしれない!ってひらめいたり、何気ないドクターの会話の端からピンときたりして、だんだんとわかっていくのです。心配しないで、あなたの前に立つ第2介助の医師だってわからないことがたくさんあるはずですよ。

空気を感じて重要血管を認識

どの診療科も外科医が共通して恐れているのは何かというと、出血です。特に少し傷ついただけで大きな破綻になるような重要血管に対しては慎重になり、ぐっと集中力を高めます。看護師はそのことを知っていて、同じフィールドに立って緊張感を高めることが求められます。大事な外科医のサポート役です。大事な場面で温度差があると信頼に欠けます。

はじめに、国試レベルの概要と血管を学ぶようにと書きましたね。解剖の本で重要な血管があることを知っておくと、それが見えないことは多いですが、現場が緊張する空気を感じることができるはずです。空気が変わったと感じたら、そうか、きっとあの奥では慎重に剥離作業が進められているのだろうなと想像します。こんなふうに。

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この箱の中の、トマトをネギから剥離して取り出そうとしているのだなーという感じに想像します。助手は大根や玉ねぎをレトラクターで避けて術者の視野を確保しようとしているはずです。ネギの上部からライトが差し込むようにすると術者は見やすくなるでしょう。

ではどうするか。万が一血管に傷がついたときのために、血管鉗子はすぐに渡せるように手元においておこう、ガーゼは早めに予備を用意しておこう、助手が次にオーダーしそうなレトラクターはあそこの棚にあったはずだな、など次の一手を考えておきます。あるいは、術者の口調が強くなっても流してあげよう、そんなふうに心の準備もします。

だいたい手術室看護師が解剖勉強しなきゃなーと改めて実感するのは、必要な器械を渡すのに準備できてなくてテンポが遅れてしまって注意されたときではないですか?解剖の名前が明確でなくても、このように空気を感じて準備ができれば十分役割を果たせているということになります。

 

改めて現場を振り返ってみて下さい、納得がいきましたか?自分の勉強方法に無駄はありませんでしたか?詳しく解剖の名前を知っていればいいというものではないのですね。

ただし、名前を暗記していて得するのは先輩看護師の解剖クイズに答えられることかもしれませんね。まだ信頼を勝ち得てない段階では、きちんと勉強して臨んでいるのか心配されて当然です。はったりのために詳しい解剖の本を盾として持っていてもいいかもしれません!

解剖理解は一日にしてならず。毎日の手術を大切に、どれだけ疑問を持って考えてくるかで1年後、5年後は変わってくるでしょう。