いつか国際協力をしたい看護師さんが今国内で身につけておくべき能力


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いつか途上国に行って国際協力をしてみたいなーと思っていても、なかなか敷居が高いと感じている人はきっと多いですよね。一度経験してしまえばなんて事はないのですが、初めは知らないことが多く不安で、誰もがためらうものです。限られた器具や設備で工夫して医療を提供すること、言葉の壁を超えてコミュニケーションをとること、感染症から自分の身を守ること・・・自分に本当にできるのか悩むことでしょう。

その不安を解決するには、とりあえずやってみることが一番早いのですが、必ずしもそれが全ての人にとって良い方法ではありません。予測できる事に対してきちんと準備してから実行する方が能力を発揮できるタイプの人もいます。

とりあえず行動してみる!という人は私が何も言わなくても動いていかれると思うので、ここではきちんと準備をしてから出たい人に、国内で今やっておくべきことをまとめましたので実行してみてください。

書いているのは私です。
NurseVery運営者 安江夏希

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フィジカルアセスメント技術の習得

災害時の緊急治療や平時の外科治療、検診など、どんな活動でもフィジカルアセスメントの技術は必須でしょう。

私は海外にボランティアに出るまで、手術看護の経験しかなかったので、実は体温計を他人のワキに挟むことは学生以来9年間やったことがありませんでした。血圧もマンシェットは巻けますが、その後あのシュポシュポを揉んでどうするのか知りませんでした。(ちなみに学生の時は水銀のタイプの血圧計だった!)手術室に限らず集中治療室や新生児室の担当だったりすると、同様に高度なモニターの扱いしかよくわからないという人も結構多いのでは?

国際協力の現場では、寄付していただいた原始的な機械を大切に使うという状況がよくあります。原理原則を押さえ直して、考えて機械を使えるようになっておくと良いです。倉庫の隅になにかしら古い機械が転がっていないでしょうか?もし見つけたら、自分で使い方を攻略して練習してみるのもいいかもしれません。

また、フィジカルアセスメントの技術が必要だと思うのは、コミュニケーションが取りにくいからという理由もあります。常に優秀な通訳が確保できるとは言い切れません。もちろん自身で現地の言語は勉強することになりますが、さすがに聞き取りをマスターするのは大変です。

ということは、問診からの情報収集に頼ることができないのです。患者さんはいろいろと訴えている様子だけど言葉を理解しきれない時は、やはり自分で見て触って情報を得ることが必要になってきます。

日本にいる間には、問診して情報を得たら必ずそのときの身体の特徴を知ってください。モニターの数値を見るのではなくてですよ。「息がこういう感じ」といったときの呼吸音はどんなか、「心臓がこんな感じ」といったときの顔色や拍動はどんなか、知識を蓄えていきましょう。

点滴ルート確保の技術習得

1951年に起こった “国立鯖江病院誤薬注射死亡事故” を聞いたことがありますか?この事件以降約50年以上、保助看法の解釈を一部変更し「静脈注射は看護師の業務の範囲を超えるものである」とされてきました。

しかし現場の状況を踏まえ、きちんと教育をすることを前提にして、平成14年9月30日付で、静脈注射は診療の補助行為の範疇であるときちんと名言されるようになりました。参考 http://www.nurse.or.jp/home/opinion/newsrelease/2008pdf/jyomyaku.pdf

積極的解釈に変わったので自信を持って静脈注射や点滴留置をしてもいいのですが、分業化が進む大病院ほど、看護師が点滴ルートの確保をしなくなってきているのではないでしょうか。

私は先にも書きましたが手術室の勤務だったので、点滴を確保するのは研修医か麻酔科医の仕事でした。禁止されているわけではありませんでしたが、積極的に携わる技術ではありませんでした。もしやらせてくれと言うなら、きっと書類を作成し師長と部長に交渉しなけらばいけなかったと思います。

私が参加したのはNPOジャパンハートのボランティアでしたが、海外派遣の前に国内の離島の病院に派遣になったので、そこでルート確保の技術は学びました。理解のある病院スタッフの皆さんだったので大変感謝しています。そこでは手が震えてしまうほどでしたが、現地に行った時には自信を持ってできましたし、現地の見習いナースに指導することもできました。

国際協力の現場では十分な医師の数がいない場合もあり、システムが整っていない状況の中では看護師の診療の補助業務の解釈範囲が広がることもあります。

また、現地では日本の製品のように質の良い針が用意されているとは限りません。切れ味が悪かったり把持しにくい針だったりする可能性もあります。私の時はそうでした。針の質だけでも戸惑うので、だからこそ余計に経験しておいてよかったなと思いました。

専門分野を持つこと

現地に行ってたった一人で活動するのでなければ、チームでプロジェクトに取り組むことになりますが、そのチームメンバーとは、必要な知識技術を全て網羅した人が集まっているのかというとそうではありません。支援の形は無数にあるので、どんな活動にも完璧な人を募ろうなんて不可能なことです。

ではチームでどんなメンバーが重宝されるのか。それは、専門分野を持っている人です。救急に強い、薬学に強い、心理学に強い、子供に強い、そういうスペシャリストが集まるチームが良いのです。広く浅く一通りの看護ができますが、何に強いかというと特に・・・というタイプは悪くはないですが魅力に欠けます。

オールマイティーになろうとしなくていいので、今携わっている分野の専門性を意識し高めていってほしいと思います。

日本人は特技を謙遜するタイプの人が多いですが、この道のプロだと自覚し、だれにでも指導できたりリーダーシップを取れるように心構えをしておくと良いでしょう。長く同じ部署にいると仕事がルーティン化し、意外と原理原則が抜け落ちていることもあると思います。意味をきちんと押さえ直し、日々準備を進めていってください。

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と、ここまで知識・技術のことを語ってきましたが、そうは言っても技術はすぐ覚えられます。
それ以上にやっておいてほしい重要な準備があるんです!

国境なき医師団が求める人材

国境なき医師団の求める人材には次のようにあります

1.活動理念への賛同
2.異文化への適応力とチームワーク
3.指導、管理業務の能力
4.ストレスに対処できる能力
5.柔軟性
6.コミュニケーション、語学力
7.独立して働く能力
8.挑戦し、自信を持って取り組む姿勢

引用 http://www.msf.or.jp/work/whatineed.html

ご覧になってわかるように、点滴が取れること、とか縫合ができること、とか、技術については何も書かれていません。

ではこれらの能力を身につけるにはどうしたら良いかというと、プロジェクトを起こしてみることです。これが一番網羅できる、効率の良い準備です。

主任や師長などの管理職に就く必要もありません。今のポジションで全く問題ないので、上司や同僚を巻き込みプロジェクトを遂行させることで実力が身につきます。

感染や安全の委員など、何か役割を持っているならそれにちなんだ取り組みでもいいですし、もっともっと小さな改善でもいいんです。例えばゴミの分別をきちんとしてもらうようにするとか、物品カートの中身を変えるとか。身近なことでプロジェクトを起こしてみてください。具体的なステップを見ていきましょう。

プチプロジェクトの立ち上げと実践方法

問題を見つける

何事も問題を見つけるところから始まります。でも意外と意識していないと見つからないものです。何ができるかな〜といつもアンテナを張っていると、だんだん問題を見つけるのが上手くなりますよ。

するとどうなるかというと、7.の独立して働く能力が身につくでしょう。
混乱した現場では十分な指示か来ないこともあるので、指示を待っているだけでなく自ら問題を見つけて行動していくことが求められます。

女性は愚痴は得意だと思いますが、それを改善するべき問題と捉えて行動することは苦手です。しかし愚痴を言えるということは、不便が存在することを感じ取ることはできているので、一歩踏み込んで問題の本質を言葉にしてみてください。

改善したいことをプレゼンする

改善したい問題が見つかったら、一人で取り組もうとせず、必ず周りの人を巻き込んで協力者を集めるようにしましょう。自分は何を問題だと思っているのか、どう改善したいと思っているのか、だからみんなにどうしてほしいのか、プレゼンする機会がやってきます。

すると、6.のコミュニケーション力が劇的にアップするでしょう。
なぜかというと、人の気持ちを動かすのは簡単なことではなく、共通の目的を持ってもらうためにはどのような伝え方をしたらいいのか、誰に根回しをしておくべきなのか、いろんなことを考えると思います。

同じ文化で似た価値観を持つ日本人の中でまず練習しておくとよいでしょう。異文化の人々の意識を統一させようと思ったら、さらに難しくなりますから。

実行・評価・改善する

実行段階に入ったら、自分が行動するよりも他人の行動をよく見るようにしてください。評価したときに、なぜそのような結果になったのか分析する要素を集めておかなければいけないからです。すると、いろんなタイプの人がいろんなことをするのを目にするでしょう。真面目に取り組む人ばかりではないはずです。

そこでどうアプローチするかが大切です。厳しい現場で働く看護師ならではの特徴ですが、厳格な対応が得意な人が多いと思います。これが私が思う日本の看護師の弱点です。

褒めて育てる教育は数年前からトレンドなので学んでいる人もいるでしょうが、それとも少し違い、初めのルールが絶対ではなく状況に合わせてタイムリーに変化させたり、無意識に行動してしまうようなユニークな方法を生み出したり、いろんな種類のアイディアを出す訓練をしましょう。「やってください」→「なんでやらないの」→「責任感がない」「やる気がない」では何も変わらないんです。

例えばこれとかすごい好きです。

こんな感じでアイディアを出そうと努力していると、5.のような柔軟性がきっと身につきます。3.の指導力もアップするでしょう。

現地ではマニュアル化されていない活動だってたくさんあります。そのときの状況に応じて最善の方法を取るために、いろんな考え方にどんどん差し替えられる柔軟性は確かに求められるでしょう。

諦めないで続ける!

そして最後に、これが一番難しくて大事なことです。続けること。

プロジェクトが計画通りに行かないことも当然出てきますが、そのときどう対処するか。おそらく9割の人はそのままフェードアウトしてしまうでしょう。

そこで踏みとどまってチームの力を最大限発揮できるように働きかければ、2.のチームワークを学べると思います。

いろんなストレスを感じたなら、ストレス下では自分にどんな症状が出るのか、いつどう対処すれば解消できるのか、と考えると、4.のストレスに対処する能力も上がります。

決めたゴールまで続けて完結させることができたなら、自信が身につき、8.のように何にでも挑戦し、自信を持って取り組めるようになるでしょう。

上手くいかなくてもいいんです。最後まで責任を果たすことがどれほどキツイことか思い知ることがまず大切です。いろんな経営者が失敗という言葉はないと語っていますがまさにその通りで、日本で一度失敗したことは、次に海外で成功する可能性になるのです。

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いつか国際協力をしてみたいと思っている看護師さんたちに、明日から国内で実践できる準備をお伝えしてきました。しかしこれを読んで実際に行動する人はどれだけいるでしょうか?特にプチプロジェクトを起こせる人はほとんどいないでしょう。それが今の日本の看護界の良くないところ

忙しすぎると嘆く人はいても、なんで忙しいのか考えて、忙しくないように工夫しようと行動する人はいません。いたとしても、自由なプロジェクトの運営を暖かく見守ってくれる管理者もあまりいないのが現状でしょう。相談する人がいなければ私にメールくだされば一緒に考えます。

海外で国際協力をしたいという意識の高い人が、率先して行動を起こして引っ張っていってくれるといいなと願っています。